「ハイラル団長……」
「ディリータでいい」
俺はデルタの腕を掴んで乱暴にベッドに突き飛ばした。俺がじっと見ていると、仕方なさそうにボタンに指をかけ、靴を脱いでいる。
ゼイレキレの滝でオヴェリアをラムザに任せ、そのせいで散々にヴォルマルフになじられたが、結局俺は黒羊騎士団の団長職を手に入れた。就任を聞いた瞬間に部下を犯り殺してやろうと決め、その日の内に部屋に呼んだのがデルタだ。だが結局殺さなかった。少し殴っただけで大人しくなり、泣き方も癇に障らなかったから気の済むまで犯して解放した。その選択は正しかった。いつでも使える穴があるのは便利だ。
お笑いなことに、どれだけいやらしく残酷に犯してもデルタは相変わらず俺を尊敬し、いつ呼び立ててもすっ飛んで来る。そしてセックスが目的だと分るとその度に落胆し、ぐずぐずと服を脱ぐのだ。
俺はベッドに座り、全裸になったデルタを床に跪かせ、まず口を使わせた。一つのまとまりとしてのデルタは全くラムザに似ていないが、部分はよく似通っている。伸ばしたままにしろ、と言えば言う通りに長くしている金髪の手触りは殊に秀逸だ。念入りに教えた甲斐あって、目を閉じて髪を撫でているとラムザをはっきりと思い出せる。デルタ自身、舐めるのは嫌いではなさそうだ。頃合かとしっかり頭を掴みうなじをくすぐりながら腰を動かすと喰らい付いてくる。吐かれると面倒だからそれまでは口内では出した事は無かったが、今日は喰い付いて離れないから仕方が無い。
「出すぜ」
抗議は無かった。少しうめいたが零さず全て飲み込んだ。滲んでいるものを吸い出しすらして夢中で舐め続けている。脱いでしまえば気持ちが切り替わり、性奴に変貌する様は見事と言っていい。
「美味いか?」
聞けば欲情した目を上げて素直に頷く。
「いいこだな。ほら、ここに上がって自分で解してみな」
全く言いなりにデルタはベッドに座る。足を開いて性器を掴み、擦り上げながら喘ぎ始めた。自慰を続けながら指を舐め、それを後口に差し入れていく。乳首を摘んで揉み潰し、耳を舐めてやると高めの声が大きくなって部屋に響いた。掻き回す指の動きが激しくなり、中でも充分に感じているようだ。指が2本に増えたところで背後に回った。軽く胸を撫でながら、小瓶に入った油を指の埋まった穴に垂らしてやる。
「まだ入るだろう?」
あっさり三本目を押し込む。いやらしい音が聞こえ始める。喘ぐ声も切羽詰ってきた。
「そのままいって見せろ」
「あ……いや……入れて下さい……」
「だめだ。自分で出来るはずだ」
「ディリータさま……!」
ベッドに押し倒し、更に足を広げてやる。
「あ、あ、もう、いく、あ、あ!」
腰を小刻みに動かしながら、良家のお坊ちゃんがとんでもない自慰をしている姿は中々に俺を興奮させる。服を脱ぎながらしばらくその淫らな姿を鑑賞した。
「いけよ」
耳に舌をねじ込むと、先端をいじりながら悲鳴を上げて吐精した。脱力している体を跨ぎ、べたべたの両手を取って俺の性器を握らせる。デルタはほとんど反射的に擦り上げてきた。いい仕上がり具合だ。指の先だけでくすぐるように後口を触ってやるとすぐにまた勃起し始める。腰をにじらせて奥に入れようとすり寄ってくるが、それを許さずじっくりといたぶる。
「欲しいか」
我ながら月並みだと思うが、こうして苛めるのはとても愉しい。
「下さい……入れて……」
デルタは目に涙を溜めて俺に哀願する。
「何が欲しい?」
「これ……これを入れて……」
擦り続けているものをぎゅっと握ってくる。
「ああ……ディリータさま……僕に入れて……」
俺はゆっくり体を移動する。デルタの目が俺の性器を追い続けているのがおかしい。全く素直な子供だ。いや、子供だからこれだけ早くに仕込めたのだろう。
「うつ伏せになれよ」
欲情に身を震わせるデルタが高く尻を上げるのを見守る。必要もないのに頭を掴んで強くベッドに押し付け、先端を後口にぴたりと当てた。
「来い」
まだ苛めるのを止めない。俺は手伝わずにデルタがなんとか押し込もうとするのを笑って見ている。無理な姿勢から手を回して俺のペニスを掴み、腰を押し付けてくる姿を愉しむ。
「下手だな。早く覚えろよ」
唇の先で笑い、少しだけめり込んだものを一気に奥まで入れてやった。
「あーっ、あ、あ、あ、やめっ! やめてください……っ!」
必ずデルタは嫌がる。本当に嫌がっている。欲しがるくせに実際の刺激に慣れるまでには少し時間がかかるのだ。
「ゆるしてください、ゆるしてください、」
泣きながら逃れようとする。無論そんな事は許さない。
「欲しかったんだろう? 沢山喰えよ」
腰を掴み締めて思い切り突き上げると頭が振り回されて涙が飛び散った。一切の手加減無しにしばらく揺すっているとデルタの腰も動き出し、声の質が変わってきた。それからは逆に俺が抑制しなければならない程にデルタは乱れ、最後に失神した。
「ディリータさま……」
うつ伏せてシガーを巻いている俺の背にデルタが指を這わせてきた。随分長い時間気を失せていたから、まだ目の焦点が定まっていない。正気でなかった時期のラムザをふと思い出して苦笑する。
「まさか足りないとでも言うつもりか?」
いいえ、とデルタは指の隣に頬を乗せた。
「火傷……? 酷い痕ですね」
俺の背には島状にケロイドがある。爆発で飛び散った熱い石が遺したジークデンの痕跡だ。
「ん? ああ、何も手当てをしなかったからな」
「何も? こんなに酷いのに」
「一月は気がつかなかった。何かの拍子に鏡に映して初めて見た」
デルタは驚いて顔を上げ何か言おうとしたが、俺の目に留められて開けた口を閉じた。そしてまた背中に頬を落とす。
「眠いのなら自室に帰れ」
うっとおしく思って言い捨てるとデルタの舌が引き攣れた痕を辿り始めた。ケロイドの部分はあまり感覚がないし、止めさせるのも面倒だったので放っておくと、じわじわと隣の痕に移っていく。何がしたいのかよく分からないが、取り立てて不愉快でもない。勝手にさせておき、枕元のランプを取ってシガーに火を点けた。吸い、吐き、灰をランプの中に落とす。何度か繰り返す間もデルタは休まない。俺は溜息と共に煙を吐いた。思惑が読めた。
「おまえ、親元に帰れ」
びくりとデルタが反応する。
「このまま団にいても俺の相手をさせられるだけだぜ」
「僕、ディリータさま、僕、」
「俺は良家の子女だからといって要職に付けたりはしない。当然寝たくらいで取り立てたりはしない。むしろ疑ってかかる。おまえは親元に帰った方が身を立てられるだろう」
「除隊、なんですか? 僕、お役に、お役に立てませんか……」
デルタを振り返らずにシガーを口に運ぶ。
「除隊はせん。親の手前があるだろうからな。おまえの代わりなどいくらでもいるという事だ。俺に取り入っても何の得にもならないぜ」
デルタの指がケロイドに触れたまま震えている。図星といったところだろう。揉み消したシガーをランプに放り込み、俺は横臥してデルタに背を向けた。
「ずっと一兵卒でかまいません」
半身を起して覗き込んでくるデルタを睨み上げる。怯み、そして震えながらデルタは言い募る。
「何の褒章も望みません、団に居させて下さい……!」
ふん、と鼻を鳴らして俺は起き上がった。油断はできないが、便利なものを手放すのが少々惜しくなった。
「勝手にしろ。ただし、俺は俺の思うようにするという事を覚えておけ。逆らえば殺して捨てる」
はい、と消え入りそうな声でデルタは言った。顎をしゃくってドアを示すとベッドを降りて大人しく服を拾う。蹴飛ばしてやりたい衝動を堪え、俺は黙って見ていた。身支度を終えるとデルタは一度振り返り、涙を溜めた目で俺をいじましく見つめ、そして出て行った。
利用すれば利用される。それはこの世の法則だ。少しばかりは利用されてもやるが、許容範囲のぎりぎりの線で常に優位に立つことが重要だ。例え相手が公と呼ばれる者でも、ただの世間知らずの坊やであっても。
全ての戸口に針の扉を立てろ。使い慣れたなまくらよりも新しい刃を使いこなせ。地も天にも頼りはしない。全てが俺のために用意されているのだと、確信を持て。
そして、それが出来ないのなら死ぬがいい。俺は誰にも、自分にすら同情なぞしない。踏んだ棘を折り割って進めないのならば倒れて腐り果てればいいさ。
起き上がり、精液が撒き散らされたシーツを剥がして奥の水場に放り、簡単に体を洗う。この部屋を整えているメイドが、最近俺とすれ違うと決して顔を見ずに足早に走り抜けるようになった事を思い出した。顔を背けながら汚れたシーツをつまんでいる姿を想像し、なんと気の毒な、と愉快な気持ちになる。
シガーをくわえ、新しく手に入れた防具を手に取ってみる。帷子が足りないかもしれないと頭に刻む。間もなくウォージリスに向かうのだ。のんきな旅を続けるラムザらをしばらく待つ必要があるだろう。きっと気が荒れるからデルタを持っていかねばならないが、伴う言い訳がうとましいな。剣も多少は使えるようになってもらいたいものだ。いっそ性奴と登録してしまおうかと考え、笑った。
逃げ帰った自室、ベッドに飛び込んで声を殺して泣く。射殺す視線が脳裏に焼き付き、間断なく責め続けて泣き止むことが出来ない。辛うじてあの人の前では涙を落とさずに済んだけれど、次は自信が無い。
次……そんなものがあるんだろうか。余計な事をして怒らせてしまった。どうしたら許してもらえるのかいくら考えても分からない。今すぐ駆け戻って爪先に額を擦り付けて許しを請うて、蹴り殺されてしまいたい。
泣いても泣いても泣き止めない。自分のどこにこれだけの涙があったのか不思議に思うくらいだ。世界の全てに激怒しているあの人に今更どんな仕打ちを受けてもあるがままに受け入れるしかない。その度々に心をえぐられても、側にいられさえすればそれでいい。それなのに。許してもらえなければどうすればいいんだろう、どうすればいいんだろう。
泣きながら毛布を被って体を温めると、染み付いているあの人の匂いが香り立って抱かれているように思える。優しいぬくもりを慰めにして目を閉じた。あの日以来あの人のことばかりを考え、泣いてばかりいる。初めて寝台に殴り倒された時からずっと、あの人のことが頭を離れない。あの人には誰でもよかったのだろうけど、僕にはあの人ただ一人。
どうか見捨てないで。どんなことでもする。あの人のためになら何でも差し出せる。ああ、神様、あの人をなだめて下さい。今度の遠征に連れて行ってもらえますように。戦いがあるのなら一人でも多く殺せますように。あの人にほんの少しでも認められますように。お願いです、お願いです、僕を立派な人殺しにして下さい。
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