小恋話

「銃の撃ち方を教えてくれないか」

 アグリアスがそんな言葉をムスタディオにかけたのは、ザランダを目前とした宿でのことだった。
 獅子戦争の進展は幕開け故に早く、彼らは混乱する情報を整理し体を慣らしながらゆっくりと北上していた。ザランダを越えて北部に入れば朝方には霜が降り、人々は収穫と冬の備えを急ぎながら年の残りを数え始める、そんな時期になった。
「そういえば、造った銃をくれるって話もあったよね」
「そうだったなあ」
 食べきれないらしいパンをラムザに押し付けながらムスタディオは笑う。ラムザの前を素通りしたパンはラッドの手の中に収まった。彼はこのところ遠くを見つめてはぼんやりする事が多く、今も手に持たされたパンをほとんど無意識のまま口に入れている。
「村じゃあ、ばたばたしてたからな。道具はあるからミスリル鉄鋼を手に入れたら造ってみるよ」
「鉄鋼? どこかで売ってたっけ?」
 アグネスがラッドから半分奪ったパンを頬張りながら聞く。ムスタディオはスプーンで表を差した。
「うん、大きな店なら言えば売ってくれるはずだ」
「そうだったのか? 気が付かなかったな」
 穏やかに微笑んでいるアグリアスを、どこか安堵したようにムスタディオは見た。言葉少なくなった彼女を随分と心配していたのである。
「教えるって程の事が出来るかは分からないけどさ、それでいいなら」
「では午後にでも」
「足は? アグリアスさん、大丈夫なのか?」
「痛みはなくなった。快癒を待つだけ、という状態では却って気が急くようだ」
 骨折が癒えぬままアリシアを送ってランベリーまで往復した後はラヴィアンの探索と、アグリアスは黙々と動き続けていた。落ち着かぬ様子でしかし思うようにならない状況に時に悄然とする姿も見せるアグリアスの気持ちを思い、ムスタディオは「いいよ」と照れた風に頷いた。



 晴れて澄んだ空気の中、三人は宿から少し離れた林の中にやって来た。側で聞いていたラムザが当たり前のような顔をして付いて来たので、三人、である。
「以前にも思ったが、銃とは意外に重いものだな」
 アグリアスは渡された銃を手に取ると、引っくり返して銃口を覗いた。
「うわ、銃口を覗いたら駄目だって、怖いよ!」
 慌ててムスタディオは銃を奪い返し、
「引き金を引かなければ安全だろう?」
首を傾けるアグリアスは、くれ、と手を差し出す。
「そりゃまあ、安全装置が付いてるけどさ……」
 疑わしそうに銃を胸に抱え込んでムスタディオは一歩下がり、そんな二人を見てラムザはにやにや笑っている。
「安全装置?」
「使わない時に引き金が引けないように、固定する部品の事だよ」
「ならば安全なのだろう?」
「ええとー!」
 人に教える、という事が大層苦手らしいムスタディオは、銃を抱えながらうんうんと考え、言った。
「た、例えば剣ならさ、冗談で仲間に切先を向けたりしないだろ、そういうのと同じ事でさ、」
「なるほど、武器に対する礼儀というものだな」
「そ、そう!」
 ちょっと違う、と思うがとにかく納得したらしいアグリアスに急いで頷く。
「分かった、覚えておく」
 ほっとしてムスタディオはアグリアスに並んだ。彼女は再び銃を手に取り、実に真剣に眺め、そして記憶に頼って銃を構えた。
「持ち方はこれで?」
「うん、大丈夫。慣れるまでは両手で持った方が命中率が上がるよ」
「こうか?」
「そうそう、剣を使う人なら握力が強いから、すぐ片手で撃てるようになると思う」
「ふむ」
 アグリアスは手近の木に狙いをつけた。
「待った、これが安全装置。外し方はこう」
「分かった」
 アグリアスは何度か安全装置をいじってから、もう一度構える。
「では」
 言ったが早いか木に向かって発砲し、しかし弾は外れて地面に食い込んだ。
「……難しいな」
「んー、悪くないよ。しばらくやってみなよ」
「模範を見せてくれないか? 戦闘中はじっくり見ることが無いからな」
 模範……と苦笑し、ムスタディオは銃を受け取った。
「それじゃあ、あの木の実に当てるよ」
 特に何の集中も無く、ムスタディオは銃を構えた。銃口が上がるなり、かなり離れた木に下がっている拳ほどの黄色い木の実が砕け、アグリアスはほう、と感心した溜息を吐いた。が、
「……分からなかった」
と困ったように言う。
「うーん、それじゃもう一度」
と、またムスタディオは何気ない様子で隣の木の実を砕いた。
「……早いな……さすがだ……」
「……えっと……」
 しばし無言。
「あはははは! 二人とも可笑しいよ!」
「黙ってろよ、ラムザ!」
 ラムザはひとしきり笑ってしゃがみ込んだ。それを睨みつけてしかし、ムスタディオは頭を抱えた。属性が教師であるアグリアスと、むしろ生徒役が似合うムスタディオ、可笑しい状況であることは、二人が一番よく知っている。
「……守るべき基本、というものはないのだろうか」
 言葉を選びながらアグリアスは聞いた。教えるつもりで教わるしかない、という風情だ。
「うー、肩と平行に腕を伸ばして撃つ、かな」
「いいよ、ムスタディオ! それらしい事言うじゃない!」
「だからラムザは黙ってろってば!」
「……やってみたほうが早そうだな」
 再び銃を持つとアグリアスは再び木の幹を狙った。やはり外れる。
「すぐには無理かもな、練習すれば大丈夫だよ」
「私の動作の不味いところは?」
「特には無いけどなあ……」
 悩み深い二人の周りをラムザが意味もなく一周する。うるさいぞ、とムスタディオが振り返れば、何も言ってないもん、と括ったムスタディオの髪が引っ張られる。とうとう小突き合い始めた少年達を余所に、アグリアスだけが銃を見つめて真剣そのものだ。
「……経験、だな。相当な訓練をしたのだろうな」
 奪われた髪紐を取り戻したムスタディオは慌ててアグリアスの隣に戻る。
「あ、うん親父に、おい、髪編むなって、ラムザ! 親父に特訓されたんだ。造ってるものぐらい上手に使えるようになれって、だからラムザ、離せってば!」
「ふむ、至言だな」
「途切れずに毎日練習するのが大事かもなあ。俺って体で覚える性質だし」
 髪を括り直しながら、空を見上げてムスタディオは目を細めた。故郷を思い出しているのかも知れないと、アグリアスはしばらく見守り、優しく言った。
「専門家として、心構えがあれば教えてくれないか?」
「専門家、だって!」
 ラムザの茶々を睨み、
「心構え、かあ……」
 ムスタディオはまたもや、うんうんと考えた後、不意に顔を上げた。そして妙に自信たっぷりに指を立て、
「狙って撃てばいいだけさ! あんまりものを考えない方がいいよ、うん!」
と言って満足そうに腰に手を当てた。アグリアスは苦笑し、ラムザはといえば、腹を押さえて笑いながら足元に転がった。何笑ってるんだよ! とムスタディオは不満そうである。

 結局それほどの時間を掛けず、アグリアスは的近くに当てることが出来るようになった。ムスタディオはようやく教師役にも慣れ、アグリアスの腕を取っては構えを直し、アグリアスもまた上達に満足して微笑んでいる。
「形になりそうだな。弓よりは使い勝手が私向きのようだ」
「そうだなあ、足が治るまではアグリアスさんは後方支援だもんなあ」
「しかし、アイテム士、というのは性に合わなさそうだ……」
「ははっそんなでもないよ、アグリアスさん優しいしさ!」
「……」
 なあラムザ、とムスタディオは振り返った。しばらく放って置かれていたラムザは寝転んで頬杖を付き二人を眺めていたが、
「睦まじいね!」
と、足をぶらぶらさせた。
「はい?」
 ムスタディオが聞き返す間もなく、立ち上がったラムザは振り返りもせずにすたすたと宿に戻って行った。



「おいー、なんだよあれ」
 日が傾く頃に戻ってきたムスタディオは呆れ顔でラムザを見降ろした。彼は部屋でせっせと剣を磨いていた。拗ねたり考え事をする時、ラムザは必ず剣を磨くことにムスタディオは気付いていたから、座り込んで黙々と剣を磨く姿はどうにも微笑ましく見える。
「あれって何?」
 ラムザは澄まして剣を持ち上げ、仕上がりを見た。
「睦まじい、ってなんだよ、子供だなあ、もう。自分が教えられる事が無いからって拗ねてんだろ。アグリアスさん、気にしてたぞ?」
「……うるさいよ!」
「妬いたんだろー、全くさあ、あれくらいでなんだってんだ」
 笑いながらムスタディオはラムザの隣に腰を降ろした。
「僕が妬こうがどうしようが、そんなの僕の勝手だね」
 でも妬いてなんかいないから! とラムザは次の剣を取る。
「何でもいいけどさ。おまえ、案外そういう奴なんだなあ」
「何、そういうって」
「独占欲が強いって事。頑固者だって事はよく知ってるけど、博愛主義かなって思ってたよ」
「……くだらないよ、博愛なんて!」
 ラムザはざかざかと勢いよく剣を磨き、ムスタディオは一層笑う。
「そうか? おまえって結局他人に優しいじゃないか」
「そんなの知らない」
「なんだ、照れてんだな」
「あのねえ、さっきからしつこいよ、ムスタディオ!」
「だっておまえいつも、爆発するまで抑えてるだろ? こういう時に吐かせておかないとな!」
「別に抑えてなんか……」
 ラムザはぶつぶつと口の中で何かを唱え、ムスタディオも剣を取って磨き皮を当てた。
「まあ、基本的にラムザは分かり易いけどな」
「……」
 憮然とするラムザの隣で、ムスタディオは鼻歌を聞かせながらのんびりと剣を裏返して楽しげに言った。
「なんだかさ、ラムザって弟って感じなんだよなあ」
 むっと眉を寄せてラムザはムスタディオを睨みつける。
「ムスタディオなんか兄さんって柄じゃないよ」
「そういやラムザ、兄さんがいるんだよな」
 話を聞いていないのかのんきなだけなのか、上機嫌なムスタディオを睨みながらもラムザはしぶしぶ頷いた。
「二人、だったよな。それじゃ弟体質でも無理ないよなあ」
「妹もいるんだけど!?」
「へー! じゃあ、弟で兄さんか! いいよなあ、羨ましいよ!」
 ムスタディオは伸ばした両足の先で、脱げかけた靴を揺らした。
「……ムスタディオ、一人っ子だったっけ」
「うん。気が付いたら母ちゃんいなくってさ。まあ、ああいう村だから皆家族みたいなもんだけどな」
「ふうん。僕は妾の子って立場だったから、ベオルブに引き取られてからは母さんとはほとんど会えなかったな……」
 え、とムスタディオはラムザをじっと見た。よしてよ、とラムザは同情を手で振り払う。
「体が弱かったんだ、母さん。だから僕ら兄妹がベオルブに行ったのは仕方ない事だった。父上も引き取りたがったし。兄さん達と上手くいかなくても当然だね。妹は、アルマは、修道院に長くいたから、僕は一人っ子も同然だったかな……」
「ええと、仲の良い兄さんもいたって言ってたよな?」
「……ザルバック兄さんはまだ年が近かったから遊んでもくれたし、勉強も教えてくれた。でも兄さんの本当の気持ちはどうだっただろうね……」
 僕の兄弟はむしろディリータとティータだったよ、とラムザはほんとうに小さな声で呟いた。
「そうか……。残念だな」
 何を差しているかは分からなかったが、ムスタディオの言葉は優しく響いた。
「うん。残念だよ」
 微かに笑ってラムザは最後の剣を手に取った。
「ムスタディオは家族が少なくて寂しかった?」
「たまにな。でも俺、母ちゃんによく似てるみたいでさー、そんなにそっくりじゃないけど髪とか目が。だから親父に滅茶苦茶可愛がられてたから、寂しいってじっくり思う事はなかったなあ」
「ふーん……」
 からかうようにラムザは目を細め、ムスタディオは磨き終わった剣を鞘に収めながら笑う。
「過保護って言うのか? はは、そうかもな。もう可愛い可愛い可愛いって小さい頃は始終抱っこされてた。抱っこって言っても親父は杖突いてるからさ、脇に抱えてどこにでも持っていかれたっけ。うんと小さい頃には仕事熱心であんまり家に居なかったような記憶もあるけど、気がついたら親父はいっつも俺と一緒にいたなあ。仕事場にも七つくらいでもう出入りしてたし」
「いい父さんだね」
「ああ。おまえだって可愛がられただろ?」
「うん……。でもね、僕は母さんと暮らしたかったよ」
 ラムザは静かに笑って顔を上げた。
「アルマと母さんと三人でね。僕が畑を耕して、出来たものをアルマが売って。母さんの実家は布を扱う商家だから、小さな店を持たせてもらえればもっと良いね」
「へー、そんな夢があったのか」
 夢、だね、とラムザは目を閉じた。
「近くにディリータがティータと住んでいるんだ。僕は早くにティータと結婚するから、母さんは孫と遊んでのんびり編物でもしながら暮らせばいい。ティータは働き者で優しいんだ。きっと店は繁盛して母さんも長生きするだろうね。ディリータは頭が良いから役場にでも勤めてね、しっかりした彼のところにアルマがお嫁にいったら、僕も母さんも安心だよ」
 それは、失われた物語だった。
「僕の人生はそうなっても良かったんだよ」
 今更だけどね、とラムザは輝く刃に自分の顔を映した。今のラムザには、あまりにも剣がよく似合うとムスタディオは胸の中で思い、彼の失ったものへの思いを想像してみた。しかし出来なかった。ラムザは伸びた前髪の間からムスタディオを見、少しだけ照れた目で笑った。

「でもさ、ラムザ、アグリアスさんが好きなんだろ?」
 ムスタディオは努めて朗らかに、大きな声を出した。
「……何をいきなり大声で」
 ラムザは目を瞬き、耳の先を赤くした。それをにやり、と笑ってムスタディオはあぐらをかいた足首を握ってラムザに顔を近づける。
「いつも目で追ってるからさー」
「……そんなことないと思うけどっ!」
 歯切れの悪い時には追求するに限る、とムスタディオは膝を進め、ラムザはじりじりと下がる。
「なんて言うかさ、もう、ばればれだって」
「放っといてよ、ムスタディオ!」
 ラムザの「放っといて」は口癖のようなものなのでムスタディオは全く気にしない。
「俺はさー、似合ってると思うけどな。アグリアスさんもラムザも貴族なんだろ? そういうところでも合ってる感じするし」
 その言葉に明らかに憤慨し、ラムザはムスタディオを睨みつけた。
「貴族かそうじゃないか、なんて意味ない分け方をされたく無いね!」
「だって事実じゃないか。例えば俺達、今は同じものを食ってるけど、きっと感じる味とかは違うと思う。そういう事を言ってるんだ」
「食べ物なんて慣れれば何だって、」
「そういうところがアグリアスさんと似てるよな」
 剣を鞘に戻し、ムスタディオに向き直るとラムザは意地悪な声を出す。
「頑固だって言いたいんだ? ふーん、そう」
「違うよ」
 ムスタディオは肩を竦める。
「だからさ、俺達は慣れとかそんなんじゃないんだよ。つまりな、今の旅でジャッキーやラッドや俺が美味しいっていう時は、何と比較する訳でもなくてただ美味いんだ。けど、ラムザやアグリアスさんがそう言う時って、違和感なく食べられる味っていう意味なんじゃないのか? 不味くはないって意味かもな」
 う、とラムザは詰まる。調子づいて前のめりになったムスタディオはにやり、と笑う。
「別にそれが悪いっていうんじゃないんだ。すごく小さいことだし。でもな、生活ってのはそういう小さいもの程重要だったりするんだよ。その辺が合わないと難しいと思うんだ」
 うんうん、と自分で頷きながらムスタディオは腕を組む。正論らしきムスタディオ説に納得しながらもラムザは最後の抵抗を試みた。
「ご教授ありがとう、ムスタディオ。でもね、君が言ってるのは結婚の心構えっていうものじゃないの? そんなんじゃないったら!」
 全くもう、とラムザはそっぽを向き、しかし驚いた声が後を追う。
「なんで? 惚れ合ったら結婚するもんじゃないか。そうしたら、ラムザにだって家族が出来て、ちょっと違っちまったけど夢が叶うだろ?」
 少々眩暈を感じてラムザは額に手を当てた。
「君は……そうかもしれないけどね……」
「俺? だってもう十八なんだぜ? 村じゃ、そろそろ家庭を持てって言われてたし」
「君の村は特別なの!」
「そんな事ないだろ、王族は大抵成人前に結婚してるんだから、標準じゃないのか?」
「王族の婚姻はほとんどの場合が政略結婚なんだから仕方ないの! 貴族もそう! 早く結婚するのは家名を守るためなんだよ!」
「……」
 ムスタディオはラムザの予想以上に悲しそうな顔をした。
「なんだよ、そんな顔して。それこそ、事実、なんだよ」
「そうだろうけどさ……。オヴェリア様の事を思うと……」
 あんまり悲しそうなので、いや、全部が全部って訳じゃないけどね、とラムザは急いで付け足し、話題を変えることにした。
「ね、本気でムスタディオ、すぐにでもあの子と結婚したいって思ってる?」
「へ、キラの事か?」
「あの子じゃなきゃ誰だって言うんだよ」
「や、そうじゃなくて。俺ら、子供がいないだけって感じだから今更な」
 言葉が終わらない内にがっくり肩を落とし、ラムザは床に手を付いた。
「……真面目だ……真面目過ぎる……」
 なんだなんだ、意気消沈しちまってさ、とムスタディオは笑った。と、ラムザは一つ大事な事を思い出し、ぱっと顔を上げた。
「そういえばムスタディオ、アグネスが気に入ってたよね……!」
 瞬時に笑いを引っ込め、今度はムスタディオがそっぽを向く。ここぞとばかりににっこり笑い、今度はラムザがにじり寄る。
「……そんなこと、」
「はっきり聞いたよ!」
「違うって、違うんだって! あれはさ、ちょっとなんかソレで!」
「分かんないよ?」
 詰め寄るラムザにムスタディオも耳を赤くしている。
「君がゴーグに戻る時には、僕、絶対に付いて行くからねー、それであの子に告げ口してやるから!」
「やや、子供じゃないんだからさ、ラムザ!」
「子供じゃないからその必要があるんだよー?」
 壁までムスタディオを追い詰め肩に手を置くとしっかり目を合わせ、どうなのさ、と苛めっ子の声を出す。
「いや、だから、アグネスはさ!」
 大慌てでムスタディオはぶんぶん手を振った。
「アグネスは、キラの母ちゃんに似てるんだよ! 俺、ヘレナおばちゃん、キラの母ちゃんに育ててもらったようなもんなんだ、大好きなんだよ! だからアグネスとキラはちょっと似てて、赤毛だし、……って、おい、ラムザ?」
 ラムザは床の上に転がって、つまんないよー、ムスタディオ! と駄々をこねている。ムスタディオにはさっぱり訳が分からない。
「なんだか知らないけど、みっともないから起きろって……」
 腕を引っ張るが、やだ! と振り払ってそのまま動かなくなってしまった。ラムザとしては、ムスタディオにも不誠実な部分を発見したかったのだが、却ってその誠実さを見せつけられ、拗ねるしかなくなったようだ。ムスタディオは首をひねりながら立ち上がり、腰に手を当てて呆れた声を出す。
「もう、仕方ないなー、じゃあ俺、またアグリアスさんと遊んでくるけどいいのか?」
 ぴく、とラムザの肩が動いた。が、
「ご自由にどうぞ!」
と拗ねた返事が返ってくるのだった。


 もちろん夕食の席では、ラムザはアグリアスを机の角に追いやってその隣を独占した。それを斜め前から笑いを噛み殺して見ているムスタディオに、アグリアスがしきりに首を傾げ、その夜も賑やかに食事が進むのだった。





れん様、3000HIT、ありがとうございました!






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