やさしいドラゴン

「なぜ笑っていらっしゃるのですか、ブラスカ様」

 いや、思い出し笑いをね。ちょっとした話だよ。





 あれはルカでの事だった。丁度ブリッツのシーズンで、大きな通りには夜になるとあちこちに屋台が出て賑わっていたよね。ジェクトが買い食いをするって怒っていたから君も覚えているんじゃないか。でも駄菓子っていうのは意外と舌に嬉しいものだよ。いつか君も試してごらん。

 あの時、私は子供だましのおもちゃがたくさん並んだ屋台の前にいたんだ。ハンドルをぐるぐる回すとおかしな音を出す小さなサルや、ゼンマイで動くチョコボなんかを眺めていた。私はそういった物を全く知らずに育ったから珍しくてね、屋台ごと買ってユウナと遊びたい気持ちになったよ。ああ、もちろん君にも一つ二つ分けてあげようね。
 そのおもちゃの群れの中、赤い花のつぼみの形をした物があった。さっぱり何だか分からなくて、私はそれを手に取ろうとしたんだ。
「なんだぁ? 懐かしーもん見てんな」
 ジェクトが私の肩の上から顔を出した。
「ここにいたのか、ジェクト」
「ウルサイのから逃げてんだよ」
「こういう物、懐かしいかい?」
「あー? ウチのガキなんざ見向きもしねーよーなレトロなヤツだな」
「へえ……そうなのか」
「ここじゃ知らねえけどな。俺にしたって骨董品に見えるぜ」
 ふうん、と私は言った。ジェクトの世界はルカよりもどこよりもずっと先にあるんだろうと思った。……ずっと前、かもしれないけどね。ああ、そんな事はいいんだ。
「変わってんな」
 ジェクトは、私が触ろうとしていた花のつぼみを取り上げた。
「私も気になっていたんだ。なんだろう」
「開きそうだな、スイッチどこだ?」
 ジェクトはそれを手のひらに置いてひっくり返したり突付いたりしていた。混んでいてね、ジェクトは私の背中にぴったり胸をくっつけて、私の両脇から手を出しておもちゃをこね回していた。彼の顎やバンダナが顔に触れて、それに気を取られていると目の前でいきなりつぼみから何かが飛び出した。「わっ」て、二人で言ってしまったよ。
「……なんか微妙だ……コレ」
 つぼみの内部には、怖い顔をした青いドラゴンが入っていた。ドラゴンの下半分が蛇腹になっていて、花が開くとびよーんと飛び出る、ただそれだけのおもちゃだったんだ。ジェクトはそれをぶらぶら振ってから私の手に乗せた。私は蛇腹をたたんで花を閉じた。スイッチなどは無くて、適当に触っていると空気圧で飛び出す仕掛けだ。私は花をぺこぺこ押しながら真上にあるジェクトの顔を見上げた。
「微妙かな? 結構格好良いと思うんだけど」
「カッコいいー!? 花くっつけたドラゴンがかぁ?」
「大きかったら迫力あると思うよ。こんな召喚獣が欲しいなあ」
「センスねーなー、おめーはよ! この服だって、」
「あっ、引っ張らないでくれ。仕方ないだろう、寺院からの支給なんだから」
「に、したってよー、うお!」
 びよん、とドラゴンが飛び出てジェクトは仰け反り、あははと笑って私はおもちゃを置いた。
「なんだ、買わねーのか」
「無駄遣いは慎むよ」
「ユウナちゃんのお土産にすりゃいーだろが」
「……女の子が喜ぶと思うかい?」
「や、ユウナちゃんならウケると思うぜ?」
 そんな事を言いながら、私達は君を探して雑踏に入って行った。





 ああ、アーロン、見ただろうジェクトを。
 素晴らしい究極召喚獣だったね。
 あの花の中にいたドラゴンを思い出したよ。
 センスの悪い私の召喚服を着損ねたようにも見えて、大いに気に入った。
 覚えていてくれたのかな、それとも実はコレを着てみたかったのかな!



「なぜ……笑って……いらっしゃるのですか、ブラスカ様……」

 いや、思い出し笑いをね。ちょっとした、話、だよ。






Rさん、お誕生日おめでとうございます!

良かったら受け取ってやって下さい。

もちっとラブい話が良かったかもですけど、これも愛v






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